脳内百景

3ピースロックバンド"The Highways"のギターボーカル、徳永の脳内。

漫画:人造人間キカイダー

今回は石ノ森章太郎が描いた人造人間キカイダーについて書く。多少ネタバレを含むので、読む予定がある方は自己責任で。

特撮作品としてのキカイダーの方が世間一般的には有名なのかもしれないが、今回はあくまで漫画版原作について書く。

 

 

まず興味を引くのがキカイダーのデザインだ。特徴的で、奇妙で、個人的には好きだが、はっきり言ってかっこよくてスタリッシュなものではない。何故こんなにも奇妙なデザインであるのか。その理由は漫画に明記されている。”良い心”と”悪い心”の悩み。2つの心の葛藤が変身すると形として露出してしまう、ということらしい。

そもそもキカイダーたち人造人間やロボットは自分たちの意思で動くことを許されていない。本来は人間の言うことを聞く機械として造られており、キカイダーはその中でも特殊な存在なのだ。

他の人造人間やロボットと違う点は”良心回路”が組み込まれているか否かにある。この良心回路というものが悪い事への抵抗を産み、悪事を働くことを抑える働きをしている。

ただ、キカイダーの持つ良心回路は完璧な完成を待たずして使用された。つまり不完全なのだ。そこにこの物語のキモがある。

 

 

上記した”良い心”と”悪い心”の葛藤。これがその不完全な良心回路から産まれるのだ。

悪の親玉、ギル博士の発する笛の音によって、不完全な良心回路は効力を失い、キカイダーは悪事を働いてしまう。

そんな不完全な自分に嫌気がさし、悩む…まるで人間である。

キカイダーは機械であるはずだが、非常に人間らしいのだ。女性に不完全な変身姿を見られたくなくて意地でも変身しなかったり、自分の醜い姿を見て落ち込んだり。

キカイダーを通して見えるのは、結局人間だ。

 

 

石黒浩という方をご存知だろうか。アンドロイド研究の世界的権威であり、マツコデラックスそっくりのアンドロイド、”マツコロイド”を作った人として有名かもしれない。その人がアンドロイドの研究を進める理由が何かといえば、”人って何かを知りたいから”らしい。人間に近いものを作って研究することで、人間とは何かを見つめているのだ。

 

 

人造人間キカイダーという作品は、”人間とは何か”を問いかけている作品に違いない。

キカイダーは最後に良心回路と反対の性質を持った”服従回路”を組み込まれてしまう。彼を捉えた悪の組織が言うことを聞くただのロボットにしようとしたのだ。

しかし結果的にキカイダーは”良心回路”と”服従回路”をどちらも持つことで人間に近い存在となる。旅の途中で出会った人造人間の兄弟たちと悪の親玉を殺し、世界を救うことに成功はするのだが、彼の表情はどこか寂しげである。

キカイダーの物語にはモチーフとしてキノピオがよく出てくるのだが、1番最後のページは”ピノキオは人間になってほんとうに幸せになれたのだろうか…?”という言葉で締めくくられる。きっと読んだ人それぞれに考えるところがあるだろう。

 

 

正直言って突き詰めればツッコミどころも多い作品なのだが、キャラクターのデザイン、普遍的なテーマも非常に重みがあって読み応えのある作品であった。

後続の数々の作品に影響を与えたであろう名作だと思う。子供の頃読んでいたら、もっと忘れられない作品になっていたかもしれない。