日常短編シリーズ:なんでもない日
これはフィクションであり、ノンフィクションの話でもある。
ハッと目が覚めた。昨日遅くまで酒を呑んでいたため、からだが非常に重い気がする。
部屋の中はカーテンの隙間から漏れる光と、透けてみえる微かな光によって真っ暗ではない。
今日はバイトがあるのに確実に二度寝してしまった。早く鼓動する心臓に揺れる体から手を伸ばし、急いでスマホの画面を見る。
8時7分。まだ間に合う。遅刻は免れた。少し安堵するが、余り時間は無いので重い体を思い切って立ち上がらせる。
トイレにいって小便をする。昨日の酒のせいで小便からアルコールの臭いがする。
洗面所に行く。鏡を見ると明らかに顔が疲れていて、黒いシャドーを塗ったみたいに目の下にクマができている。水を出して顔を洗う。タオルで顔を拭く。
もう一度顔を見たらそこまでクマは濃くない気がした。人間の目は信用ならない。
6畳一間の部屋に戻って服を着替える。昨日も履いたジーパンを履く。少し湿っていて、昨日は雨が降っていた事を思い出した。履いた瞬間は不快だったけど、まあすぐに乾くだろう。
いつも持っていく肩掛けのカバンに財布とスマホとイヤホンが入っているのを確かめて玄関のドアを開ける。外に出ると太陽の強い光が目にしみる。目が慣れるまでは眩しい。もう何度繰り返し通ったかわからない道を歩いて、少し広い道まで出て、バス停でバスを待つ。
僕の前には背の高い女性が1人。髪は長めで薄く茶色に染まっている。べっ甲みたいなイヤリングかピアスをしている。
後は興味がなくなってきちんと覚えていない。
バスが来て乗り込む。Suicaを押し当ててピピッとなったらバスの奥まで歩いて行く。座れたら良かったが、もう席が埋まっているため立って最寄駅につくまで揺られる。
そういえば今日はバイトは昼過ぎまでで、夜は呑み会がある事を思い出す。
また呑む。お酒は好きなのだ。バイトが短いだけでも十分心は晴れやかになる。
久々に会う同級生と呑むのだ。人と会うのが本当に億劫な日もあるが、今日はそんな気持ちはない。気温はかなり高く、ビールはおいしいと思う。
どんな話をするのかなんて考えない。なんとなくみんなが元気そうならいいと考える。
扉の前に立っていたので、途中で降りてゆく人を右に左に避けてバスが到着するのを待つ。
バスの扉が開く。歩いてバイト先に向かう。
またいつもと同じ様な日かもしれない。未来の今まで見た事ない日を待つために、創るために、一日をまた積み重ねてゆく。
言葉で書けばそれらしいが、ただゆっくり命が坂道を転げて行っているだけの事だ。
頭の中がまた別の思考に切り替わる。1秒後の私は何を考えているのだろう。